ICT支援員認定試験公式サイトの問題例(A領域)を解いてみた

ICT支援員能力認定試験に関するFAQ - ITCE 教育情報化コーディネータ検定試験公式サイト

試験問題は公開されないのですか。

 非公開が原則ですが、2013年(初年度)の出題より、以下のような例が紹介されています。その後もほぼ同レベルの問題となっているようです。ちなみにA領域は36問90分、B領域はネットワークで送付されてきて4日以内に動画で解答することになっています。*1

の問題例(A領域の4問)を解いてみた。初めに言っておくと、かなりツッコミどころがある。公式ガイドブックのAmazon レビュー

・練習問題がひどいですが、実際のICT支援員の試験はもっと的外れな問題が出ます。正直、びっくりしました。

・一般的な正解よりも認定委員会が正解としたものが優先されるとの事なので、きちんとした解説がないと傾向と対策が掴めないんじゃないでしょうか。

とあったが、今回の例題からもその匂いが感じられた。なお2013年の出題なのでそのあたりの事情を加味する必要がある。

【問題 1】開かないWord ファイル

ある先生から自宅で作ってきたwordのデータが学校では開かないと相談があった。ファイルを見てみると「*.docx」となっていた。以下の対応のうち【適切と考えられるもの】をすべて選び、チェックしなさい。

1.Word 2007より前のバージョンでは、そのまま「*.docx」ファイルを開くことはできないので、Microsoftが無償で配布している「互換機能パック」を追加インストールし、「*.docx」ファイルを表示、編集、保存できるようにする。    
2.ファイルの拡張子を「*.docx」から「*.doc」に「名前の変更」を使用して変更する。  
3.校内でWord 2007以降のバージョンのインストールされているパソコンを探す。 
4.Word 2007より前のバージョンでは、そのまま「*.docx」ファイルを開くことはできないので、自宅で「*.doc」で保存し直すように伝える。
5.一太郎などの他のワープロソフトを利用して開く場合もあるので試してみる。

問題の内容の前に、出題形式について少し言っておきたい。この問題は「【適切と考えられるもの】をすべて選び」とあり、それがいくつあるかは示されていない。したがって選択式問題とはいっても25=32通りの回答があり、当てずっぽうで答えても正解する確率は低い。もちろん適切なものが0個や5個は常識的にまずあり得ないし、「すべて選び」とあるので1個も考えにくい、4個もまずなさそう、と考えていけば実際の偶然正解率はもっと高いだろう。ただそれは受験テクニックに過ぎず、真の実力ではない。過去問を分析し「過去の例では答えは必ず2個である」「過去に5個すべて適切という問題が出題されたことがある」のような情報があれば有利だが、過去問は公開されていない。そして採点基準がわからないが、もし5個の事項に対しすべて正解した場合のみ得点を与え、1個でも間違えれば0点というのであれば、実質この1問で5問連続出題しているのと同じかそれ以上で、非常に厳しい出題形式だ。*2

さて問題の内容についてだが、まず1.は王道の方法で、間違いなく適切といえる。教育現場で実際にこの場面になったら、私は1.を提案・実施するだろう。そして2.は明らかに不適切。この二つには特に議論の余地はない*3

次に3.だが、もし問題が「【ファイルを開けると考えられるもの】をすべて選べ」なら、この3.をチェックすることに迷いはないが、1.に比べると適切さは劣ると感じる。しかし2013年であることも考え合わせ、現実的に問題を解決する(王道とかどうでもいいのでとにかくファイルを開ける)ことが最優先と考えれば、適切の範囲といえるだろう。

次に4.だが、これも現実的な問題解決が最優先なら、検討に値する案だ。2021年の今こんなことをさせられたら先生のモチベーションは下がるだろうが、2013年の問題であることを考えると、当時の教育現場では.docx はまだ普及過渡期だったのかもしれない。ただ、2021年の観点からするとこれが適切とはいいたくない。結論としては、おそらく出題者はこれを適切と考えていると思われるので私はチェックする。*4

最後に5.だが、これは自信がない。まず、一太郎が実際に.docx を開けるかどうかは私は知らないし、知る必要はない。一太郎は一例であって、世の中には.docx が開けるWord 以外のワープロソフトが必ず存在するはずだからだ。

この方法は明らかに行き当たりばったりで、運よく開くソフトが見つかる場合もあるだろうが、根本解決になっておらず、今後も同じ問題が発生することを考えても決して適切とはいいたくない。ただ、「とにかくファイルが開けるかどうかが最優先」という方針を取るなら、この方法も「適切」に入るかもしれない。実際この方針は3.と4.で採用した方針だ。3.と4.に適用した方針が5.に適用できないのはおかしい。もし実際に(2013年に受験していて)この問題が出たら、私は悩んだ挙句この5.にはチェックしないと思う。

【問題 2】無線LAN

無線LANに関する以下の記述のうち、【正しいもの】をすべて選び、チェックしなさい。

1.ネットワークセキュリティキーは、毎回接続するときに必ず入力が求められる。
2.WEPはすでに古い暗号化形式であり脆弱性が指摘されており、暗号化の方法として用いるべきではない。
3.SSIDは有効な暗号化の方法であり、公開しなければセキュリティが保たれると考えてよい。
4.無線LANの暗号化や接続の方法は日進月歩であり、新しい情報を入手する必要がある。

これも問題1と同じく、実質4問連続出題されているのと同じ(かそれ以上の)厳しい形式だ。

1.は「必ず」と強い制限がかかっているので、反例が一つでもあれば論破できるということで試験テクニック的に×であることはすぐわかる。そこまで考えずとも簡単な問題。

2.は妥当な問題。WEP はWired Equivalent Privacy のacronym で、Wikipedia による以下の説明を一緒に覚えておくと記憶に定着しやすいと思う。

従来からある有線LAN並みの機密性を提供するものと期待されていたが、後に容易に解読できることが判明したため廃れた。

3.は特記事項なし。SSID はService Set IDentifier のacronym で、SSID が何かを知っていれば正解できる。

4.はよくある、選択肢の頭数を揃えるために用意された無意味な問題。常識的な一般論であり、これが正しくないという人はいないだろう。 この問題文の「無線LANの暗号化や接続の方法」を他の何かに変えても正しくなるはず。

【問題 3】教育関連用語

以下の説明は、学校教育で用いられている教育関連用語について述べたものである。それぞれ、何を表してるか、【適切なもの】を、選択肢の中から選びなさい。

1. 教育の目的、理念、義務教育、学校教育などについて明示されている法令
   ・学校教育法
   ・教育基本法 
   ・学校基本法
   ・学習指導要領
   ・憲法26条

2. 文部科学省から告示される、学校教育の教育課程の基準
   ・教科指導書
   ・指導要録
   ・学習指導要領
   ・教育課程評価基準
   ・学校基本法

3. 児童・生徒への学習指導の過程や成果などを要約して記録したもの
   ・保護者通知票
   ・教科指導書
   ・指導要録
   ・学習指導要領
   ・学校要覧

4. 現行の学校制度の根幹である学校の設置や管理などについて明示されている法令
   ・学校教育法
   ・教育基本法
   ・学校基本法
   ・学習指導要領
   ・憲法26条

こういうのはまだ全く勉強していない。わかるものもあるが、選択肢の中には聞いたことがないものがいくつかある。

1.の選択肢にある「学校基本法」というのはウェブで検索してもはっきりした情報が見つからなかった(学校教育法の誤記と思われるものはあったが)。架空の法律のようだ。2.や4.の選択肢にも登場している。

また憲法26条は、教育を受ける権利および義務教育について規定している。何条かはすっかり忘れていた。

2.の選択肢にある「指導要録」が3.の正解。通常この写しが内申書とのことだが、知らなかった。また選択肢にある「教育課程評価基準」については、国が定めた「教育課程の基準」が「学習指導要領」とのことで、そこから作られたダミー選択肢と思われる。

3.の選択肢にある「学校要覧」は、各学校が学校の概要をまとめた紹介資料を指すようだ。

4.は、学校基本法が架空の法律とわかっていれば、1.と4.で「学校教育法」と「教育基本法」のどちらかにおおよそ絞れ、そこからは名前で十分推理可能。

なおこの問題も1問に4問入っている。出題は全36問で単純計算だと1問2.777...点だが、この1問に詰め合わされた4問がどういう採点になるのかはわからない。

【問題 4】学校のホームページ

学校のホームページの更新を依頼された。どの様な点に注意をすべきか。【適切なもの】をすべて選び、チェックしなさい。

1.本人にとっても名誉なことだと考え、市の発明コンクールで特選になった児童のA社の特集記事を変更を加えず掲載する。
2.知らないうちに変更される可能性があるので、外部サイトへのリンクは、定期的に確認する。
3.プライバシー保護の観点から、個人情報の掲載については十分に留意する。
4.改正により著作権のコピー制限が緩和されたので、有用な情報は丸ごとコピーしてできるだけ掲載する。
5.迷惑メール等が多く届くので、学校のホームページには、サイト運営先の住所、電話番号、メールアドレスの連絡先は掲載しない。

くどいがこれも5問連続出題と同等以上の厳しい出題形式。

1.は常識の範囲。掲載ではなくリンクにすべき。2.は、個人的に私は適切とは思わない。定期的に確認するほどのことはなく、気づいたら/指摘されたら直せば十分ではないか。これがICT支援員の仕事として回ってきたら私はスクリプトかツールで自動化するが、そういう考え・環境のない先生が手作業で行っていると考えると気の毒だ。ただ、おそらく出題側はこれを適切と考えていると思われるので、実際の試験ではチェックする。

3.は頭数で用意された選択肢で、誰でも適切と判断できる。4.もその類で、「丸ごと」という大げさな表現がヒントになっていて不適切とわかる。*5

5.には少し考えさせる点がある。確かに昔、ウェブサイトにメールアドレスを掲載するとスパムメールが届くので、テキストではなく画像で掲載していたことがあった。この問題はメールアドレスではなく住所も電話番号も掲載しないとなっているのでさすがにそれは不適切だとわかるが、それは別として、メールアドレスは掲載すべきか否か。

いくつかの小中学校のウェブサイトを確認してみると、メールアドレスは普通にテキストで掲載していた。迷惑メールにはツール等で対策するということなのだろう。

あともう一点、問題文では「学校の連絡先」ではなく「サイト運営先の連絡先」となっている。学校がサイト運営を外部業者に委託していた場合、その業者の連絡先を学校ウェブサイトには載せないだろう。それをもってこの5.が「適切」となる可能性もなくはない。その点は要改善の問題だと思う。

まとめ

1問が実質4~5問連続出題に相当する形式が主であることが分かった。採点基準がわからないがもし4~5問すべて正解しないと0点となるなら厳しい。ただ、難易度などの情報からするとそれは考えづらく、心配する必要はないだろう。

*1:自分のところで実施している試験なのに「~が紹介されています」「~となっているようです」のようになぜか推測・他人事のように書かれている。

*2:私自身は現状の試験の難易度が低すぎると思っており、適切な難易度に上がるのなら歓迎の立場ではある。

*3:ただし「あと5分で授業が始まり、それまでに必要なので大至急!」のような条件が付けば、1.が不適切となるシチュエーションもありうる。

*4:このように予算不足の/よくわかっていない管理者が現場に不便を強いることが適切とされる例は、教育現場に限らず会社にもよく見られる。

*5: (2013年ごろに)「改正により著作権のコピー制限が緩和された」とあるのが事実か気になってちょっと調べたが、よくわからなかった。